2015年 06月 17日
私は昔から専門書の類が好きでした。 この仕事を始めた頃から、工具や本にはお金を掛けました。 駆け出しの頃に購入した本の一つがこれです。 管楽器にとって表面処理は必要不可欠のものです。その代表的なメッキについて勉強することは、技術力の向上につながると考えました。 この本を読んで、メッキの種類やメッキをする前の洗浄、下処理、下地メッキの目的などを知りました。 また、メッキを掛ける前の下処理工程が管楽器の管内洗浄に応用できるのではないか?と考えたのもこの本がきっかけです。 元来、科学や化学が好きでしたので、読めば読むほどメッキへの好奇心は増すばかりでした。 その好奇心は留まることを知らず、職場の周辺にメッキ工場や町工場が点在していたことも手伝って、実際にお邪魔をして色々な知識を教えて頂きました。 何より、20年以上前の話ですから、現在のようのインターネットなどはありません。 私の駆け出しの頃の情報源は人と本だった、というわけです。 メッキは工業用、宝飾用として使われるもので、本質は見た目、コスト、機能性の為の物です。 そのうえで、楽器にとってメッキとはなんなのか。 1・耐摩耗、腐食防止 2・滑りの向上 3・音への付加価値 4・修理への応用(息漏れの解消や部品位置の調整) 5・見た目 6・その他 メッキには色々な種類があり、それぞれの特徴が楽器の性能に反映されます。 メッキの違いによる音への影響の例として、トランペットの全体仕上げを挙げます。 言葉で音を説明することは難しく、反対の表現になる場合もございます。 ニッケルメッキ……鋭く硬い ラッカー仕上げ……暗く硬め 銀メッキ ……明るく柔らかい 金メッキ ……艶やかで重厚 メッキによる楽器の性能調整は、楽器の種類、部品の違い、組み合わせなどを合わせると、無数の調整余地が有ると言えます。 また楽器によっては反対の結果になる場合があります。 技術者として「○○メッキをするとおおよそこういう傾向になる」という目安のお話は出来ますが、「確実にこうなる!」と言い切れない部分があります。 また、メッキをしても違いの分かりずらい鈍感な箇所もあります。 修理の手段(息漏れの解消や部品位置の調整)としてのメッキ。 音色や吹奏感の調整をするためのメッキ。 色を塗るように好みの色に変えるメッキ。 音や吹奏感については、メッキ後の変化があるのか無いのか、実施しないとわからないケースもあれば、おおよそ予測が付く場合もあります。 いずれにしても、変化を楽しむ、それが気に入るかどうか、というのも管楽器調整の楽しみの一つではないでしょうか。 石井管楽器はメッキの掛け直しなどを承っております。 このように朽ち果てる寸前の物でも綺麗にメッキを掛け直すことが出来ます。 昔使っていたマウスピースその後 追記 管楽器の表面処理として忘れてはならないラッカー塗装については、この本で勉強しました。 石井管楽器 #
by ishiikangakki
| 2015-06-17 18:06
2015年 06月 12日
金管木管問わず、管楽器にはネジが使用されています。 そもそも楽器の構成部品の一つにしか過ぎなかったネジ。 それが、今では「ネジ一つで音が変わる」をキャッチフレーズに多種多様なの物が流通しています。 私が10代の後半の頃でしょうか、アメリカ製のトランペット「ヴィンセント・バック」で「ヘビーボトムキャップ」という、ネジ蓋が印象的でした。抵抗感が増えて音が遠くに飛ぶようになる、と聞いたような記憶が残っています。 それから、サックスのネックを締めるネジを、リガチャー用の小さい物に付け替えることが流行したり、材質や加工法にこだわったオリジナルのネジが開発販売が行なわれるようになりました。その流れが現在も進行形ではないでしょうか。 楽器の部品の一つで過ぎなかったネジ。本来の役割があります。 サックスは運搬や製造上ネック部を着脱式にしたほうが具合が良く、そのネックが演奏中にブラブラ動くのでは困るので固定するために機能する部品。 クラリネットについている、キーを挟み込むように固定するための「鍵ネジ(ピボットスクリュー)」と呼ばれる部品。 トランペットのピストン内部に汚れが入らない様に、また油や水分が楽器内部から外部へ流出しずらくするため「底」または「ボトムキャップ」と呼ばれる部品。 ネジは構造上取り外しが容易ですから、その中でも交換によって音や吹奏感に比較的大きな違いがあるものに、商品として価値が生まれているのではないかと思います。 ネジは部品同士を接合固定をするという特性上、本来の目的を果たしていなければ意味はありません。 その上で、技術者との対話、ネジの効果についての解釈、自分のニーズに合っているか。そのようなことから選び、より気持ち良く音作りが出来るセッティングを見出す。これも管楽器を演奏するうえでの調整範囲だと、私は思います。 もちろん、練習第一であることは否定しません。 管楽器は設計を元に精巧に作られたものですから、改悪になる可能性も否定しません。 また、ネジは締め方、固定の方法でも、吹奏感や音に影響がある場合があります。 突然ですが、サックスには1番管と2番管(朝顔から吹き口方向に進んで最初に大きく曲がる大きいU字管とその次の円錐状の長い管)の接合部を金属のバンドで締め付けてあります。 その締め付けネジが、メーカーによって違います。 ヤマハ製のサクソフォンは、次の写真の右側の金色が純正品です。 ご興味のある方がいらっしゃしましたら、ご説明させて頂きますのでお問い合わせください。 石井管楽器 #
by ishiikangakki
| 2015-06-12 19:08
| ネジ
2015年 06月 05日
リガチャーの自作。後編です。 ロッド材(棒材)の組み合わせによる性能の調整が容易なリガチャー、というコンセプトに基づき作成したリガチャーがこれです。 リードに接する二本の丸棒を、やはり二本の丸棒で支える構造です。 そしてその丸棒は反対側の丸棒に繋がりリードを挟みこみます。 ロッドの材料を変えることで、性能に差異が生まれるような狙いでした。 実際にリードに当たるロッドを純銀にしてみたり、 またロッドに削り込みを入れることで、重量や剛性のバランス変更が可能です。 ネジによっても性能が変わりますので、そちらも色々試してみました。 しかし、出来上がって吹いてみた、その感触と音質、自分はとても気に入りました。特筆すべきはレスポンスの良さでした。 特に低音木管楽器(バリトンサクソフォン、バスクラリネット)の吹奏感は「いける!」という手応えでした。 このアイディアを煮詰めていくと良いものが出来そうだとわかりました。 しかし、些細なあるきっかけで熱が冷め、リガチャー作りは終わりました。 もし、またリガチャーを作ることになったら、これを超えるようなものを作ります。 石井管楽器 #
by ishiikangakki
| 2015-06-05 16:23
| 木管楽器
2015年 05月 27日
2か月程前にこんな記事を書きました。 昔使っていたマウスピース こんなになってしまったマウスピースを磨いたら綺麗になりましたという話でした。 これです。 先週、別件でメッキ工場にお願いすることがあったので、ついでにこのマウスピースにメッキを掛けて貰いました。 これです。 ピンクゴールドにしました。 先週の木曜日に発送して、今朝、到着という、素晴らしく早い仕事をしていただきました! マウスピースの再メッキ(リプレート、メッキ掛け直し)は目安として1~2週間程で仕上がります。 もちろん、ケースバイケースではありますので、正確にはご依頼の際にご確認ください。 石井管楽器 #
by ishiikangakki
| 2015-05-27 14:18
| 金管楽器
2015年 05月 23日
このブログをお読みの皆様は、もうお気づきだとおもいますが、私は自分で何かを作ってみることで学びを得ようと性質があります。 もう10数年前になりますか、リガチャー作りにチャレンジしたことがあります。 次のリンク先の記事、マウスピース作りよりも遥か昔のことです。 http://ishiikg.exblog.jp/20825855/ リガチャーとは木管楽器のマウスピースに発音体であるリードを固定するための器具です。 素材や形状などの組み合わせで様々なものが製品として存在しています。 リードという木管楽器の発音体をどのように固定するか。固定の仕方やその器具の材質によって、差異が生まれるのです。 その差異が大したものでなければ、リードが固定されれば、それこそセロハンテープでも良いはずなのですが、そんなことはありません。 リード脱着の機能性、リードのどの位の圧力で固定するのか、器具自体の振動はどうなのか。 器具の設計をされる方それぞれのアプローチから、コンセプトに基づいたリガチャー作りが行われているのだと思います。 私は何故リガチャーを自分で作ろうと思ったのか。 それは、ただ単に自分で作ったリガチャーでいい音が出たら楽しいだろうという自己満足からです。実際に作り上げていい音が出た時はそれはそれは嬉しいものでした。 しかし、物作りですからテーマやコンセプトが必要です。きっかけは単純なものでも、物作りは作れば良いというものでは身にならないと思っています。 リガチャーを作る上で必要な工作機械や知識は殆ど持っていません。 ですから、当時の自分の技術や知識を総動員して作ろうと考えました。 「自分の力で作り上げるリガチャー」がテーマです。 当時リガチャーを作るための道具類は、 ペンチ バーナー ロウ材 金工のこぎり ネジ切りタップ ダイス といったところです。 まずは何で作るのか。 これは真っ先に金属と考えました。理由は簡単で、金属の特性を深く知りたいからです。 板で作ることも考えましたが、どうせ作るのであれば、色々な楽器の物を作ってみたい。 つまり、E♭クラリネットからバリトンサクソフォンまで、様々な大きさの物に対応したい。 また、材質の組み合わせによって、リガチャーの性能の調整を容易にしたい。 以上から、「ロッド材の組み合わせによるリガチャー性能の調整が容易なリガチャー」というコンセプトに決定しました(随分と長いコンセプトですが)。 次回はその自作リガチャーの衝撃の画像をご覧いただきます(と少しオーバーに。大したことありません)。 つづく 石井管楽器 #
by ishiikangakki
| 2015-05-23 15:53
| 木管楽器
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